モラハラ加害者に共通して見られる特徴のひとつが、自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)の傾向です。
この障害は、単なる“わがまま”や“自己中”とは異なり、根本的に他人を思いやることができず、心を許した相手ほど傷つけてしまうという深い心理的問題を抱えています。
「いつも自分が正しい」
「特別な存在として扱われたい」
「相手を支配したがる」
そんな態度の裏には、本人すら自覚できない“未成熟な自己愛”が隠れていることが少なくありません。
今回は、モラハラとの関係性を軸に「自己愛性パーソナリティ障害」の特徴と違い、心のしくみをわかりやすく解説します。
「私が悪いんじゃない」と気づくこと。
そこからあなたの人生は大きく変わります。
自己愛性パーソナリティ障害とは?
「自己愛」とは誰にでもあるものです。
「自分を大切に思う気持ち」自体は、自己肯定感の源でもあります。
自己愛は多かれ少なかれ誰でももっているものですが、未成熟な自己愛からくる人格障害(パーソナリティ障害)のことを自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害)といいます。
通常は年齢とともに自己愛が成熟していき、ありのままの自分を愛し、さらに他人に対して愛情を注げるようになりますよね。
しかし自己愛性パーソナリティ障害の人は自己愛が未成熟なため、他人どころか、ありのままの自分すら愛することができません。
ありのままの自分を愛することができずに、
「俺は素晴らしい人格者だ」
「特別な人間だ」
と、思い込んでいます。
そう思い込まないと、自分を愛することができないんです。
- 「自分は他人よりも優れている」と強く信じている
- 周囲からの称賛や注目を異常に欲しがる
- 批判に極度に弱く、激しく怒る(自己愛憤怒)
- 他人への共感力が著しく低い
- 自分を守るために他者を見下し、貶める
一見すると自信に満ちた強い人物に見えることもありますが、内面は劣等感や自己否定感の塊で、常に自分の価値を外に求めています。

モラハラとは?自己愛性パーソナリティ障害との関係性
モラハラとは「行為」を指すもの
「モラハラ」とは、モラル・ハラスメント(moral harassment)の略称で、言葉や態度による精神的な嫌がらせや心理的支配を指します。
たとえば、次のような行為が代表例です。
- 相手を無視する・黙り込む
- 小さなミスを過剰に責め立てる
- 他人の前で恥をかかせる
- 自分の価値観を一方的に押しつける
これらは「暴力」とは違って目に見えにくく、被害者自身が「これって本当にハラスメントなのかな?」と悩み続ける傾向があります。
しかしそのダメージは身体的暴力に匹敵する、もしくはそれ以上のものになることもあるのです。

自己愛性パーソナリティ障害とは「特性・診断名」である
一方、「自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)」とは、精神医学的な診断名です。
アメリカ精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル)では、以下のような特徴が見られると診断されることがあります。
- 自分を過剰に特別視し、優越感を持っている
- 他者への共感力が極端に欠如している
- 賞賛を強く求め、批判に対して非常に敏感
- 他人を利用し、自己の利益を優先する
この障害を持つ人は、「自分こそが正しい」と固く信じ込み、周囲の意見や感情を理解しようとしません。
ただし注意すべきなのは、すべてのモラハラ加害者がこの診断を受けているわけではないという点です。
むしろ、正式な診断は受けていなくても、自己愛性パーソナリティ障害の“傾向”を強く持っている人が多いのです。
なぜモラハラ加害者に自己愛傾向が多いのか?
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の中にある劣等感や不安、自己否定感を他人を支配することで覆い隠そうとします。
そのため、他者との距離が近づき「心を許した」と感じると、反転するように攻撃的・支配的な態度を取るようになります。
これは、自己愛が未成熟なまま大人になったことによる防衛反応とも言えます。
自分の脆さを直視せずに、「自分は正しい」「自分は特別」という幻想を保つために、相手を下に見て安心しようとするのです。
結果として、モラハラ行為が繰り返される構造ができあがります。
ワンポイントアドバイス!
「夫は診断されていないから、ただの性格の問題かも」と思い込む必要はありません。
診断がつかなくても、その言動がモラハラであるかどうかを見極めることが大切です。
大切なのは「診断名」ではなく、「あなたの心がどう感じているか」です。
自己愛性人格障害の特徴と心理メカニズム
「自分は特別」と思い込まないと保てない心
自己愛性人格障害の人は、「自分は他人とは違う」「選ばれた存在である」と過剰に思い込んでいます。
これはただの“自信家”や“ナルシスト”とは異なり、内面の深い劣等感や空虚感を隠すための心理的な防衛反応です。
たとえば、以下のような口癖がよく見られます。
「俺がいなかったらこの家はどうなると思ってるんだ」
「あの人たちとはレベルが違う」
「誰も俺の価値をわかってない」
表面的には自信に満ちたように見えますが、内面は極度の不安とコンプレックスに満ちています。
そのため、他人の成功や批判を極端に嫌い、自分を守るために相手を攻撃するのです。
心を許した相手ほど支配したくなる理由
意外かもしれませんが、自己愛性パーソナリティ障害の人にとって
「心を許すこと」は「相手を支配すること」とほぼ同義です。
そのため、恋人や配偶者のように心理的な距離が近い人ほど、モラハラのターゲットになりやすくなります。
彼らの中には、「愛する=コントロールする」という歪んだ人間関係のモデルが根づいている場合が多いのです。
たとえば、
- ちょっとした反論に激怒する
- 外ではいい人なのに、家では人が変わったように暴言を吐く
- 他人には親切なのに、配偶者には冷酷で残酷な言動をする
これは、「外の世界」に対しては“いい自分”を見せ、「内の世界(家族や配偶者)」には自分のストレスや不満をぶつけてバランスを取ろうとする典型例です。

劣等感を隠すための自己暗示とターゲット探し
自己愛性人格障害の人は、自分の弱さを直視できません。
そのため、次のようなプロセスでモラハラ行為を正当化・習慣化していきます。
- 自分の中の劣等感や不安を感じる
- それを打ち消すために、誰かを「下の存在」に設定
- 相手を責め、否定し、自己肯定感を回復しようとする
- 一時的に安心するが、根本の不安は解消されず、また繰り返す
このループの中で、最も手近で「自分に心を許してくれている存在」=配偶者がターゲットになっていくのです。
ここで覚えておきたいこと
自己愛性人格障害の人が相手を傷つけるのは、あなたの性格や行動が原因ではありません。
それは彼ら自身の心の未成熟さと、ゆがんだ自己認知によるものなのです。

モラハラと自己愛性人格障害の違いと見分け方
自己愛性人格障害は“診断名”、モラハラは“行動の性質”
まず押さえておきたいのは、「自己愛性人格障害」とは、医師が専門的に診断する“人格の特性”であり、
「モラハラ」とは、誰かに対して行われる“精神的暴力”という“行動”を指すものです。
- 自己愛性人格障害:精神医学に基づいた診断(DSM-5など)
- モラハラ:特定の行動パターン(侮辱、支配、無視、人格否定など)
つまり、モラハラをする人がすべて「自己愛性人格障害」であるとは限りませんし、逆に、自己愛性人格障害の診断を受けた人がすべてモラハラをするとも限りません。
診断は「白黒」ではなく「グラデーション」
精神的な特性や性格の傾向は、白か黒かで明確に分けられるものではありません。
診断の有無とは関係なく、“グレーゾーン”に位置する人も多く存在します。
たとえば、
- 明らかに自己愛的な傾向があるが、診断基準を満たさない
- 他者への共感性が極端に乏しく、支配的な行動を繰り返す
- 承認欲求が強く、否定されると怒りや暴言に変わる
といった人々は、自己愛性人格障害に「非常に近い」存在といえます。
こうした人がモラハラ行為を日常的に行う場合、たとえ医師の診断がついていなくても、実質的な「モラハラ加害者」として対応する必要があります。
普通の人の「嫌がらせ」と、モラハラ加害者の違い
人は誰しも、怒りに任せて言い過ぎてしまったり、八つ当たりしてしまったりすることがあります。
しかし、自己愛性人格障害の傾向が強い人と、普通の人との大きな違いは次の点に表れます。
項目 | 普通の人 | 自己愛性人格障害(モラハラ加害者) |
---|---|---|
後悔・反省 | 後悔し、謝罪しようとする | 自己正当化し、謝らない・責任転嫁する |
共感 | 相手の気持ちを理解しようとする | 他者の感情に無関心、または利用する |
繰り返し | 同じことは避けようとする | 何度も繰り返し、悪化していく傾向がある |
この違いが、モラハラを「一時的な喧嘩」や「性格の不一致」と切り分ける大きなポイントです。
では「モラハラかどうか」を見極めるには?
以下のような特徴があれば、モラハラの可能性が高いと考えられます。
- 日常的に否定され、自信を失っている
- 相手に反論すると逆上されるため何も言えない
- 他人には優しく、自分にだけ冷たい
- 自分が悪いのでは?と思わされている
- 話し合いが一方的で、いつも自分が謝らされている
このような状況が続いている場合、それは“普通の夫婦喧嘩”ではなく、立派なモラルハラスメントです。
被害者が取るべき対処法と行動指針
「あなたが悪いわけではない」と理解する
モラハラの被害者が最初にやるべきことは、「自分のせいではない」と知ることです。
自己愛性人格障害のような加害者は、巧妙にあなたを責め、自信を奪い、罪悪感を抱かせます。
でも、あなたがどんなに優しく接しても、相手の態度が変わらないのなら、それはあなたの努力では変えられない問題です。
心の距離と物理的な距離を取る重要性
もしあなたが「自分を責める思考」から抜け出せないのであれば、まずは一時的でも心の距離を取ることが大切です。
さらに可能であれば、物理的な距離(別居・帰省など)を取ることで、冷静な視点を取り戻しやすくなります。
距離を取ることは「逃げ」ではなく、自分自身の心を守る“戦略”です。
記録・相談・証拠の準備をしておく
将来的に離婚や法的措置を視野に入れる場合、次の3つを意識的に進めておくことをおすすめします:
- 記録をつける
・日付、言動、気持ちなどを日記アプリやノートに記録
・LINEやメールの保存も重要な証拠に - 相談する
・女性相談センター、弁護士、カウンセラーなど専門家に相談
・「第三者の視点」を入れることで状況の客観化が可能 - 証拠を保存する
・音声、スクリーンショット、診断書など、使えるものは全て記録
「変わることを期待しない」ことも自己防衛
多くの人が、「もしかしたら変わってくれるかも」と希望を持ちます。
でも、自己愛性人格障害のような性格構造に深く根ざした加害者が、自発的に変わることは非常に困難です。
- 反省しない
- 自分を正当化する
- 話し合いが成り立たない
こうした特徴が見られるなら、「変わることを前提に行動する」こと自体が、あなたを苦しめ続ける原因になりかねません。
💡 一番大切なのは、「あなたの人生をあなたが取り戻すこと」
配偶者との関係性よりも先に、あなた自身の心の安全と尊厳を守ることが最優先です。
誰かに否定され続ける人生ではなく、自分を尊重してくれる環境の中で、穏やかに過ごせる未来を選んでください。
まとめ:自分を取り戻すために、距離を置くという選択を
モラハラをする人の中には、自己愛性パーソナリティ障害の傾向を強く持つ人が多くいます。
彼らは、心を許した相手ほどコントロールしたくなり、繰り返し精神的に傷つけるような言動をとる傾向があります。
あなたがどれだけ努力しても、相手が変わらないのは、あなたのせいではありません。
それは、相手の「心の未成熟」と「歪んだ自己認識」に原因があるのです。
自分を責めないでください。
- 「私がもっと我慢すれば…」
- 「私の言い方が悪かったのかも…」
- 「他の人ならうまくやれるのでは…」
そんなふうに思い悩んでしまうのは、モラハラの支配下にある人に共通の心理です。
でも、それは“洗脳”に近いものだということに、どうか気づいてください。
あなたには、平穏に生きる権利があります。
あなたが今感じている不安や疲れ、無力感は、あなた自身が弱いからではなく、異常な関係の中で心をすり減らしてきた結果です。
あなたには、安心して眠れる夜、
穏やかな時間を過ごせる日々、
自分らしく笑える人生を選ぶ権利があります。

最後に──距離を置くことは、「逃げ」ではなく「回復への第一歩」
相手を変えようとするよりも、まずは自分を守ることを選んでください。
距離を置き、自分の気持ちを整理し、本来の自分を取り戻す時間を持つこと。
それこそが、長いモラハラのトンネルから抜け出すための最も確実な第一歩です。
あなたがあなたらしく生きられる未来のために。
どうか、自分を大切にする選択をしてくださいね。
