子どもの将来の教育資金を備えるために、多くの家庭で加入している学資保険。
しかし、離婚という人生の大きな節目において、この学資保険がどのように扱われるべきかを明確に理解している人は意外と少ないものです。
「学資保険は子どものためのものだから離婚とは無関係」
「名義が夫だから妻には関係ない」
といった思い込みが、後に深刻なトラブルや教育資金の損失につながることもあります。
この記事では、2025年現在の法制度・保険業界の動向を踏まえながら、学資保険が離婚時にどのように財産分与の対象となるのか、またトラブルを防ぐためにどんな対応が求められるのかを解説します。
学資保険も財産分与の対象になる
まず押さえておくべきポイントは、学資保険も財産分与の対象になり得るということです。
学資保険は、貯蓄型である限り、預貯金や投資信託などと同じく「現金等に準ずる金融資産」と見なされます。
民法第768条は、離婚時に夫婦が婚姻中に築いた財産を公平に分与することを定めており、積立型の学資保険はまさにその対象です。
また、夫婦どちらが契約者であるかにかかわらず、婚姻中に支払われた保険料は共同生活の中で生じた収入から捻出されているため、共有財産として認識されるのが一般的です。
たとえ名義が夫であっても、妻には財産分与を求める正当な権利があります。
学資保険の財産分与の考え方
離婚時における学資保険の評価は、保険の「現在価値」、すなわち解約した場合に返ってくる解約返戻金の額を基準に行われます。
財産分与の対象とされる学資保険については、以下のような観点で評価されます。
観点 | 内容 |
---|---|
保険の種類 | 掛け捨て型か積立型かによって大きく扱いが変わります。掛け捨て型は資産価値を持たないため原則として分与対象外。一方で返戻金がある積立型は分与対象。 |
保険料の支払者 | 支払いを行っていた配偶者(多くは夫)がが財産形成に寄与したと主張することは可能ですが、実務上は「夫婦共有財産」として扱われることがほとんどです。 |
保険契約の時期 | 婚姻中の契約かどうかが重要(婚姻前の契約は分与対象外の場合あり) |
解約返戻金の有無 | 解約時にいくら返ってくるか(=現在の評価額)で資産価値を算定 |
このように、契約形態・返戻金の有無・支払い状況などを総合的に見て、保険の持つ「資産性」を判断する必要があります。
単に「子どものための保険だから夫婦のものではない」とは言えず、その評価額に応じて分与の対象になるのが一般的です。

学資保険の財産分与方法|3つの選択肢とそのリスク
では、財産分与の対象となった学資保険を実際にどのように扱えばよいのでしょうか?
以下の3つの方法が主な選択肢となります。
それぞれの特徴とリスクについて、詳しく見ていきましょう。
① 解約して返戻金を分ける方法
最も単純な方法が「学資保険を解約して、その返戻金を夫婦で折半する」やり方です。
この方法のメリットは、保険という複雑な商品を清算し、単純な金銭に置き換えて分与できることです。
金銭で分ければ後腐れがなく、公平感も高いと感じる人も多いでしょう。
ただし、積立型の学資保険は長期間にわたって支払うことにより、一定の返戻率を確保する設計となっており、途中で解約すればその多くが元本割れします。
つまり、せっかく積み立ててきた教育資金が、大きく目減りしてしまうのです。
さらに、途中で解約してしまえば、子どもの進学時に本来受け取れるはずだった祝金や満期金が失われるため、最終的には「誰も得をしない」結末になりかねません。
- 公平に金銭として分けることができ、手続きも比較的明確。
- 学資保険の多くは長期積立型のため、途中解約によって大幅に元本割れするリスクがある。
- 子どもの将来の教育資金を失ってしまう。
実務的には、よほど現金が必要な事情がある場合以外、解約は推奨されません。
② 契約者を親権者に変更して保険を継続する
もっとも現実的、かつ子どもの利益にかなう方法がこちら。
保険契約を解約せず、契約者を親権者(通常は子どもを引き取る親)に変更することで、保険契約を存続させる方法です。
このやり方であれば、保険料の払い込みを継続しつつ、満期時には予定通りに祝金や給付金を受け取ることができます。
また、名義を親権者に変更することで、元配偶者が勝手に保険を解約するリスクを避けられます。
- 保険契約はそのまま存続
- 教育資金を安全に守れる
- 契約変更後は元配偶者の関与なしで管理できる
- 契約者変更のために現契約者(多くは夫)の同意と手続きが必要
- 保険会社によっては契約者変更が制限される場合もある
2025年現在、一部保険会社では「離婚を理由とした契約者変更」に柔軟に対応しており、戸籍謄本と協議離婚届の写しなどがあれば名義変更が認められる例もあります。
特に、マイナポータル連携が進んだことで、契約者情報の確認が簡略化され、手続きが円滑になってきています。
ただし、契約者本人(多くの場合は夫)の同意が必要なことに変わりはありません。
そのため、事前に話し合いと合意を得ておくことが極めて重要です。
③ 契約者はそのままで保険を継続し、返戻金相当額を分与する
もう一つの選択肢が、「契約者を変更せず、解約返戻金の相当額を財産分与として現金で清算し、保険契約はそのまま存続する」方法です。
この方法では、実際には保険契約を変更せず、親権を持たない側(元夫など)が契約者として継続的に保険を管理します。
その一方で、妻には返戻金の半額などの相当額を財産分与として支払う形を取ります。
一見、実務的かつ負担が少ない方法のように見えますが、親権を持たない契約者によって保険が一方的に解約されたり、保険料が滞納されたりするリスクがある点に注意が必要です。
また、満期時の給付金が本当に子どものために使われるかどうかは、契約者の善意に頼るしかありません。
- 解約による損失を回避できる
- 金銭的には公平な分与が実現可能
- 契約者が親権を持たない元配偶者である場合、一方的な解約や保険料の未納リスクが残る
- 「満期金を渡す」といった合意が守られないケースも現実には多い
実務上の注意点とトラブル防止の工夫
どの保険会社も、契約者変更には契約者本人の署名・同意が必要です。
親権者である元配偶者だけで勝手に変更することはできません。
離婚後に学資保険をめぐるトラブルを防ぐためには、契約者変更ができる場合は必ず親権者へ変更するのが最も安全です。
ただし、契約者が名義変更に応じてくれないケースも少なくありません。
その場合には、以下のような対策を講じることが考えられます
- 公正証書を作成し、契約条件を明文化する
-
「保険金はすべて子どもの教育資金に使用する」旨を明記し、法的効力を持たせておくことで、後のトラブル防止につながります。
- 契約者に支払状況の報告義務を持たせる
-
滞納によって保険契約が失効することを防ぐため、定期的な報告を取り決めておくと安心です。
- 保険証券や契約内容のコピーを親権者側が保持
-
情報の透明性を確保することで、万一の際の対応がスムーズになります。
2025年の最新動向と実務トレンド
近年、離婚件数の増加に伴い、学資保険をめぐる争いが家庭裁判所でも注目されるようになってきました。
特に2025年には、以下のような新たなトレンドが見られます。
- 家庭裁判所の調停において、学資保険の取り扱いが明文化される事例が増加
- マイナポータルとの連携によって、保険契約の確認が容易になり、未申告契約の洗い出しが可能に
- 保険会社の中には「離婚時特例制度」を導入し、名義変更に柔軟対応するところも出てきている
これらの動きにより、学資保険の財産的価値に対する社会的認識も高まりつつあります。
離婚にあたっては、こうした情報を正確に把握し、冷静かつ戦略的に行動することが求められます。

まとめ|子どもの未来を守るには「学資保険の名義変更」が鍵
離婚時に財産分与として注目されるのは、家や車、預貯金といった「目に見える資産」が中心です。
しかし、学資保険のような将来価値のある資産も、手続き次第では大きなトラブルの種になります。
- 保険契約の存在を忘れずに確認する
- 契約者の名義変更を検討し、親権者が保険を管理できるようにする
- 解約する際のリスクを正しく理解する
- どうしても名義変更できない場合は、公正証書や協議書で補強する
これらのステップをしっかり踏むことで、子どもの教育資金というかけがえのない未来を守ることができます。
感情的にならず、冷静に保険契約と向き合うことが、離婚後の生活の安心にもつながります。
