「俺は悪くない!」
「怒られるようなことをするお前が悪いんだろ」
こんなひどいことを平気で言ってくる夫に対して、
「どうしてここまで堂々と自分を正当化できるの?」
と、怖さを感じたことはありませんか?
もし、夫の言動に「なんかおかしい」「怖い」「話が通じない」と感じたことがあるなら、それは「モラルハラスメント(モラハラ)」と呼ばれる、心への暴力の一種かもしれません。
特に厄介なのは、モラハラをする夫本人が、「自分の行動は正しい」と本気で思っているという点です。
それはただの開き直りではなく、「自己暗示」という心の仕組みが深く関係しています。
この記事では、あなたが冷静に状況を理解し、「私が悪いんじゃなかった」と気づけるように、モラハラ夫の心理構造をやさしく、わかりやすく解説していきます。
モラハラとは?見えづらい精神的暴力の正体
モラハラの定義と具体例
モラルハラスメント(略してモラハラ)とは、言葉や態度によって相手の心を傷つけたり、コントロールしようとする行為を指します。
殴る、蹴るなどの身体的暴力はありませんが、以下のようなケースが該当します。
- 些細なことで怒鳴る、無視する
- 家族や友人を否定する
- 家事や育児の努力を「当たり前」と見下す
- 自分のミスを妻のせいにする
- 「お前のため」と言いながら傷つける発言を繰り返す
これらの言動は、被害者の自尊心や判断力を徐々に奪っていきます。
特に、加害者が「それは正しい行為だ」と信じ込んでいる場合、問題はさらに複雑になります。

DVとの違いは“見えるか見えないか”
モラハラは「見えない暴力」。
モラハラはDV(ドメスティック・バイオレンス)の一形態と考えられていますが、殴る・蹴るといった身体的な外傷がないため、外からは分かりづらいのが特徴です。
加害者自身も「暴力をふるっていないから自分は悪くない」と考えがちで、これが問題の根深さにつながっています。
でも、心を傷つけるのも立派な暴力です。
なぜモラハラ夫は自分の行動を正当化できるのか?
「俺は悪くない」と本気で信じている理由
あなたがいくら「ひどい」と感じても、モラハラ夫は涼しい顔でこう言うかもしれません。
「お前が悪いから注意してるだけだ」
「俺が怒る理由がある。反省しろ」
なぜこれほどまでに、堂々と自分の言動を正当化できるのでしょうか?
その背景には「認知の歪み」や「自己防衛のための心理メカニズム」があります。
わかりやすくいうと、自分を守るために“心が現実をすり替えている”からなんです。
「自分が悪者だと認めると、自分が崩れてしまう」ために、心の中で“嘘を本当”にすり替えてしまうのです。

心が矛盾をなくそうとする仕組み
心理学には「認知的不協和(にんちのふきょうわ)」という考え方があります。
これは、「自分の信念と行動が矛盾すると、不快感(不協和)を覚え、その矛盾を何とか解消しようとする」という心の働きです。
たとえば・・・
「自分は立派な夫だ」という信念
「妻を怒鳴り、傷つけている」という行動
この2つが矛盾していて苦しくなると、人はどちらかを変えてしまってバランスを取ろうとするというものです。
モラハラ夫の場合、「自分は悪い」とは思いたくないので、「妻が悪い」「俺は正しい」と思い込むことで心を守っているのです。
つまり、モラハラ夫は自分の精神の安定を保つために、現実を捻じ曲げて解釈しているのです。
自己暗示で“本当”にしてしまう
自己暗示とは、自分に対して「これは正しい」「自分は間違っていない」と繰り返し思い込むことで、本当にそれを信じ込んでしまう心の働きです。
スポーツ選手が「俺は勝てる!」と強く思い込むのも一種の自己暗示ですが、モラハラ夫の自己暗示はもっと危険な形で作用します。
- 「妻が悪い。だから俺は正しいことをしている」
- 「俺は家族のためを思って言っているだけ」
- 「注意してやるのは、愛情の証だ」
というふうに、自分に何度も言い聞かせているのです。
モラハラ夫は、自分の支配行動を「指導」「教育」「正義」などに置き換え、「自分は悪くない」と思い込み、罪悪感から逃れようとします。
その結果、「俺は間違っていない」と心から信じている状態になります。

モラハラ夫の中にある“2人の自分”
モラ夫A(加害自覚)とモラ夫B(善人自己像)
ここでイメージしやすくするために、モラハラ夫の心の中には、あえて言うならこんな2人がいると想像してみてください。
- モラ夫A:本当は「自分がモラハラしている」とわかっている人
- モラ夫B:「自分は良い夫で、正しいことをしている」と信じている人
この2つの人格の間で、自己暗示による“事実の書き換え”が行われています。
モラ夫A(無意識下の加害者)
「あー、イライラする。妻に八つ当たりしてスッキリしよう」
「俺のストレスのはけ口になればいいんだよ」
この人格は、自分の攻撃性・支配欲を自覚しています。
しかし、それをそのまま認めてしまうと、モラハラ夫自身の心が壊れてしまいます。
モラ夫B(表層の“理想的な自分”)
「俺は良い夫だ」
「妻が幸せに暮らせるよう、厳しく接しているだけだ」
「俺が怒るのは妻のため。間違っていない」
モラ夫Bは、モラ夫Aからの自己暗示により、「妻が悪い」「自分は正義」だと本気で信じ込んでいます。
モラ夫Aがモラ夫Bに自己暗示をかけて、「妻が悪いんだ」「これは正しい行動なんだ」と思い込ませます。
「自己暗示」で事実がすり替わる
モラ夫Aが、「妻が悪い」「自分は被害者」とモラ夫Bに言い聞かせることで、モラ夫Bはそれを真実として信じ込むのです。
これにより、モラ夫本人は本気でこう考えるようになります。
「俺は妻のために言ってあげてる」
「これはモラハラじゃなく、正しい助言だ」
結果、本人の中では「嘘」が「真実」に変わり、モラハラをしているという意識が希薄になるのです。
だから“嘘をついている”という意識がない
モラハラ夫に罪悪感が見られないのは、本人が嘘をついているつもりがないからです。
自分の中では「妻のためを思って」「自分は傷ついている被害者」だと、真剣に信じているのです。
こうした無意識レベルでの“自己洗脳”が、モラハラの正当化を可能にしているのです。
このように自己暗示が成功すると、モラハラ夫は本当に自分を正当化できるため、
- 罪悪感がない
- 悪びれる様子もない
- 被害者である妻を「加害者」とすら思っている
という状況が生まれます。
他人には見せないモラハラの裏側|“隠す”という選択
なぜ他人の前では「良い夫」を演じるのか?
モラハラ夫は、家庭内では理不尽な態度や言動を繰り返す一方で、外ではまるで別人のように振る舞うことが少なくありません。
家庭内では理不尽な態度ばかりなのに、外では優しい夫を演じていませんか?
- ご近所ではニコニコ
- 子どもと公園で楽しそうに遊ぶ
- 家では怒鳴るのに、外では絶対怒らない
これは偶然ではなく、自分のモラハラが「見られるとまずいもの」だと理解しているからです。
本当に正しいと思っているなら、隠す必要はないはず
モラハラ夫が、もし本気で「俺は正しいことをしている」と思っているのなら、他人の前でも同じ態度をとれるはずですよね?
でも実際はそれを隠す。
ということは、心のどこかで「これは悪いことだ」と知っている証拠です。
つまり彼らは、
「これはモラハラではない」と信じながらも、同時に
「外でやると都合が悪い」ということはしっかり認識しているのです。
「隠す」ことで保たれる“理想の自己像”
この二面性が存在する理由は、モラ夫B(善人自己像)を維持するためです。
もし他人にモラハラ的言動を見られれば、「自分は良き夫」という自己イメージが壊れてしまいます。
それを避けるため、外では“良い人”を演じ、家庭内という閉ざされた空間でのみ、支配行動を露わにするのです。
モラハラ夫の思考のクセとは?
思い込みが激しく、責任はいつも他人に
モラハラ夫には、いくつか特徴的な“思考のクセ”があります。
- 白か黒かの極端な考え方:「少しでもミス=全否定してOK」
- いつも自分が被害者:「なんで俺ばっかり損するんだ」
- 都合の悪いことは忘れる:「そんなこと言ってない」
- 何でも人のせい:「お前がそうさせた」
こうした考え方が、妻を悪者に仕立てあげ、自分を守る仕組みになっているのです。
自分を特別だと思いたい気持ち
心理学では、こうした傾向を「ナルシシズム(自己愛)」と言います。
- 自分が一番正しい
- 間違いは人にある
- 人を見下すことで自分の価値を保つ
こうした気持ちが強いと、相手を傷つけてでも、「自分は優れている」と思いたくなってしまうのです。
あなたが悪いわけじゃない
苦しさの原因がわかると、少し楽になります
長い間モラハラを受けていると、
「私が悪いんじゃないか」
と思ってしまいがちです。
でも、モラハラ夫の自己暗示による正当化は、あなたを悪者に見せかける“仕組み”だったのです。
あなたは悪くありません。
間違っているのは、相手の行動です。
共感と理解が「自分を取り戻す」手がかりになる
「もしかして、私と同じかも」と思った方は、ぜひ一人で抱え込まず、支援機関や専門家に相談してください。
また、同じような経験をした人の声に触れることで、自分の気持ちを言語化できたり、客観的に状況を見直せることもあります。
あなたが感じている「違和感」は、決して間違いではありません。
自分の心を大切にするためにも、「相手がなぜそうしてくるのか」を冷静に理解することは、自分の軸を取り戻す大きな手がかりになります。
まとめ|モラハラは「自己暗示による正当化」で成り立っている
今回の記事では、モラハラ夫がなぜ自分の支配的な行動を「正しい」と信じてしまうのか、その心理構造と自己暗示のメカニズムについて解説しました。
- 自分を守るために「自己暗示」で現実をすり替えている
- だから堂々と「自分は正しい」と信じていられる
- そしてそれを他人には隠し、家庭内でだけ表に出す
という特徴があります。
モラハラの正体を知ることで、「自分が悪いのではない」と気づけることがとても大切です。
どうか、あなた自身の心を大事にしてください。
あなたは間違っていません。
