離婚を考えるとき、「親権」や「養育費」に意識が向きがちですが、財産分与についてもしっかり理解しておかないと、損をしてしまう可能性があります。
とくに、まだあまり知られていない制度として注目されているのが「扶養的財産分与」です。
これは、離婚後に生活が不安定になる配偶者を支えるための制度で、とくに専業主婦やパートタイムの女性にとって、生活再建の大きな助けとなります。
本記事では、「財産分与」の全体像と「扶養的財産分与」の仕組み、請求のポイントを詳しくご紹介します。
今後の人生を安定させるために、正しい知識をしっかり押さえておきましょう。
財産分与とは?―離婚時に重要な制度
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に公平に分け合う制度です。
これは民法第768条に基づき、専業主婦や収入の少ない配偶者でも、財産を受け取る権利が認められている法的制度です。
離婚後の生活に不安を抱える女性にとって、この制度は非常に重要です。
「早く離婚したいから」「面倒だから」と話し合いを省略してしまうと、本来受け取れるはずの財産を取り逃してしまうこともあります。
なぜ財産分与が重要なのか?
離婚後の生活設計において、まとまった資金があるかないかは大きな違いを生みます。
離婚を急ぐあまり、財産分与についての話し合いを曖昧にしてしまうと、本来受け取れるはずの財産を逃してしまう可能性があります。
「知らなかった」では済まされないのが、お金に関する取り決めです。
財産分与の4つの種類とは?
財産分与には実は複数の種類があり、それぞれ目的や性質が異なります。
ここでは4つの代表的な財産分与の種類をご紹介します。
1. 清算的財産分与(もっとも基本の分与)
もっとも一般的なのがこの「清算的財産分与」です。
これは、婚姻中に取得した財産を清算し、夫婦で公平に分けるための制度です。
対象となるのは以下のようなものです。
- 結婚後に購入した家や車
- 預貯金や証券
- 家具・家電などの家財道具
- 年金や退職金の一部
名義が夫であっても、婚姻期間中に築いた財産であれば、妻にも権利があり、原則2分の1ずつ公平に分け合うことになります。
また、不倫やモラハラなどの離婚原因がどちらにあるかに関係なく、財産分与は基本的に「公平」に行われるのが原則です。
これは「制裁」ではなく「精算」が目的だからです。
2. 扶養的財産分与(生活を補う目的)
次に注目すべきが「扶養的財産分与」です。
これは、離婚後に生活力の低い配偶者に対し、一定期間にわたり金銭を支払って生活を支える目的で行われる分与です。
これは、たとえば長年専業主婦だった女性が突然離婚した場合、就職するまでの間の生活を支えるために、元夫が定期的に金銭を支払うという仕組みです。
離婚後すぐに収入を得られるとは限りません。
特に以下のようなケースでは、一定期間の生活支援が不可欠です。
- 専業主婦やパート勤務で収入が低い
- 小さな子どもがいてすぐに働けない
- 就職活動をしても職が見つかりにくい
- 高齢・病気などで就労が困難
たとえば、長年にわたり家事や育児を担ってきた女性は、収入がゼロまたは非常に低く、いきなり生活を立て直すのは困難です。
このような場合、元夫から生活費の一部を一定期間支払ってもらう形で、経済的な補助を受けることが可能です。
▷支払い期間の目安は?
扶養的財産分与の支払い期間は、おおよそ半年から3年程度とされています。
これは、支援を受ける側が就職したり、実家の支援を受けたりすることで生活が安定するまでの一時的な措置です。
注意点
以下のようなケースでは、扶養的財産分与が認められない場合があります。
- 離婚時に多額の財産分与や慰謝料を受け取っている
- 安定した収入がある、もしくは就職可能と判断される
- 実家の経済的支援が受けられる
- 再婚予定の相手がいる
- 元夫に支払い能力がない
扶養的財産分与は「義務」ではなく、必要性と支払能力のバランスで判断される制度です。
3. 慰謝料的財産分与(精神的苦痛への代償)
これは、慰謝料の代わりに不動産やその他の財産を分与する方法です。
例えば、慰謝料として現金が用意できない場合に、住宅や土地などの資産を渡すことで代替することがあります。
ただし、慰謝料的財産分与の内容が精神的苦痛に見合わないと判断されれば、別途慰謝料を請求できる場合もあります。
4. 婚姻費用清算的財産分与(別居中の未払い費用を清算)
別居中であっても、法律上は夫婦として生活費を分担する義務があります。
もし別居中に生活費を受け取っていなかった場合、その分を離婚時に財産分与として請求することができます。
たとえば、夫が一方的に家を出て行き、生活費を全く支払わなかった場合、別居期間中の生活費相当額を後から請求できる可能性があるのです。
これは、婚姻中である限り、たとえ別居していても生活費の分担義務があるという民法の考え方に基づいています。
財産分与の対象になる財産・ならない財産
財産分与では、どの財産が対象になるかを明確にすることが非常に重要です。
財産の種類によって取り扱いが異なります。
分類 | 内容 | 財産分与の対象 |
---|---|---|
共有財産 | 夫婦の共同名義で得た財産(例:マイホーム、生活必需品) | ○ |
実質的共有財産 | 名義は一方でも、婚姻中に形成された財産(例:預貯金、年金、保険) | ○ |
特有財産 | 結婚前から所有していた財産や相続・贈与による財産 | × |
また、夫婦の借金も条件によっては分与の対象になります。
たとえば、家や車のローン、生活費に関する借金などがこれに該当します。
この場合、 プラスの財産から借金などのマイナスの財産を差し引いた額を夫婦で分け合うことになります。
ただし、ギャンブルや浪費による借金は対象外です。
あくまで夫婦や家族のための生活に必要な借金のみが対象になります。
扶養的財産分与の注意点
すべての人が対象になるわけではない
扶養的財産分与が認められるかどうかは、以下のような要素が総合的に判断されます。
- 離婚後の生活力(収入、就労状況)
- 子どもの有無・育児状況
- 元夫の収入・資産状況
- 他に支援してくれる人(実家など)がいるか
扶養的財産分与が認められないケース
- 十分な財産分与や慰謝料を受けている
- 自立可能な収入がある
- 実家に経済的援助を受けられる
- 再婚が決まっている
- 元夫に支払能力がない
扶養的財産分与を請求するには?
扶養的財産分与を確実に受けるためには、以下のような手続きや準備が必要です。
1. 弁護士など専門家に相談する
まずは、離婚や財産分与に詳しい弁護士に相談しましょう。
無料相談を活用するのもおすすめです。
法テラスを利用すれば、3回まで無料で相談を受けることができます。

2. 協議離婚か調停離婚かを決める
話し合いで合意が難しい場合は、家庭裁判所での調停や審判を通じて判断されることになります。
モラハラ夫相手なら、絶対に調停離婚一択です!
最初から話し合おうなんて考えず、調停の申し立てをしましょう。

3. 証拠をそろえる
生活費の不足、育児の負担、就労が難しい理由などを証明する資料(家計簿、給与明細、診断書など)を用意しておくと説得力が増します。
6. まとめ:離婚時こそ「お金の知識」が未来を守る
扶養的財産分与を知らないまま離婚してしまうと、本来受け取れるはずの支援を見逃してしまうかもしれません。
とくに、専業主婦やパートで家計を支えてきた女性は、「夫が稼いだお金だから…」と遠慮する必要はありません。
法的に認められた「共同で築いた財産」であり、生活を立て直すための制度なのです。
不安を抱える必要はありません。
正しい情報と準備で、自分と家族の未来をしっかり守りましょう。
